東京地判平成27年2月5日(判例時報2298号(平成28年8月21日))

【事案の概要】
XがYから絵画6点を購入したけれども,消費者契約法4条1項に基づく取り消しなどを求めた事案です。
XはYから絵画を購入する際,Yから「この絵画はXに運気をもたらす」,他の絵画については「金箔が使用されており,金の価値が上がっていて他にも買い手がいる,価格は3000万円である」との説明を受けました。Xは,Yから全部で6枚の絵を買い,総額7656万円を支払いました。
その後,XはYに対し,絵画を返却すると言い,返送しました。本件の絵画については百貨店の販売価格や美術図書に公表された価格,鑑定評価額などがありましたが,鑑定評価によると高くても総額665万円でした(ちなみに3000万円とされた本件絵画4の鑑定評価額は200万から250万)。

【判旨】
(不実告知の有無)
「絵画については,一般に使用価値や原材料費等のみに基づく客観的な価格設定は想定し難く,主観的かつ相対的な価値判断が加わって価格設定がされるものと解されるから,買主にとっての価値も,それが一般にどのような価格で販売されているかという事実に依拠し,その購買の意思の形成は絵画に対する主観的な価値判断と販売価格を衡量するなどして行われるものと解される。そうすると,当該絵画が流通を繰り返して一定の評価が固まっていれば格別,そうでない場合は,画家が顧客に販売する際に設定している価格,すなわちデパート価格あるいは公表価額に基づいて算定された価格が示されれば足り,専門業者に依頼しなければ算定の困難な業者買取価格が示される必要はない」

(断定的判断の提供の有無)
「原告は,(中略)原告に対し「◯◯富士」は,本来5000万円の価値があるけれど,甲野さんだから3000万円で売ってくれると思う。」「二夫先生は近い将来賞をとる予定だから,◯◯富士は近い将来価値が上がり,最終的には二倍,三倍まで必ず上がる」などと,本件絵画4の将来の価額について断定的判断を度々告げていたと主張」
・原告のメモであって客観的証拠としては不十分
・被告は認めていない
・内容は具体的でなく原告が価値が上がることを信用した理由としては十分なものとはいえない

→原告の請求はいずれも棄却

【コメント】
消費者契約法4条1項は,こんな条文です。

消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

この条文は,民法上の詐欺が成立せずとも重要事項についての誤認と断定的判断の内容が確実であるとの誤認があれば,取り消すことができるという,実務的にも重要な条文です。
もっとも,いずれについても立証のハードルがそれなりに高いのが難点です。

本件は契約前にご相談いただいていれば,おそらく訴訟になるようなことはなかったでしょうね。できるだけ早めに(できれば契約前がベストですが)弁護士にご相談いただいた方が,結果的に安くつくといういい例かと思います。
大きな金額の契約(概ね100万円以上)をする際は,ぜひ弁護士にご相談ください。契約のメリットデメリットやトラブルになった際の対応も含めてアドバイスします。