判例時報2293号(平成28年7月1日号)のまとめ

判例時報2293号(平成28年7月1日号)について,井垣孝之が興味を持ったものをピックアップしています。判例時報に掲載されているすべての判例・裁判例を紹介するとは限りません。

判例・裁判例のタイトル冒頭の◎は最高裁の判例,●は高裁裁判例,○は地裁裁判例です。

刑法判例と実務-第七回 因果関係(下)-・・・小林憲太郎

立教大学の小林教授による,①検討対象を(裁)判例とする,②研究者ならではの分析を加えた,③学説からは支持されない判例についても,独自説によるのではなく,学界においてより適切な結論を導くとされる基本的な発想群に近づくようにするというコンセプトの企画。

面白そうだったので第1回から全部読んでみましたが,原理原則と判例実務を接合する試みで,非常に勉強になりました。

判決録<行政>

●陸上自衛隊情報保全隊のイラク派遣反対活動等の監視のために行った氏名・職業等の情報の収集・保有が違法であるとして10万円の国家賠償請求を認めた事例(仙台高判平成28年2月2日)

【事案の概要】

本件において賠償請求が認められた者(原告乙山)についてのみ簡単にまとめます。
陸上自衛隊情報保全隊は,イラク派遣反対活動等に関して反対活動の概要(発生年月日・場所・件名・関係者・内容・どの勢力かなど)を作成していました。また,本件派遣反対活動に関するデモ行進の代表者の氏名も書いて,関係部署に配布していました。

「乙山A」という仮名で街で反戦や平和のメッセージを込めた曲を歌っていた乙山は,自分は本名ではやっていないのに本件各文書に本名や職業まで記載されていることに驚いたこと,仕事中に上司から「乙山君は,歌を歌っているが,レコード会社等には所属しているのか」と聞かれたことから,情報保全隊が追跡調査しているのではないかと考えました。

本件各文書には,実際に「おつやま・○○,本名○○」「社会福祉評議会職員」などという記載があり,具体的にどんな反戦活動をしているかについても書かれていました。

【裁判所の判断】

まず,仙台高判は,行政機関が行う情報収集活動が直ちに法律上の明文の根拠規定を必要とするものではないとした上で,違法性の判断方法は「情報収集行為の目的,必要性,態様,情報の管理方法,情報の私事性,秘匿性の程度,個人の属性,被侵害利益の性質,その他の事情を総合考慮する必要がある」としました。

被侵害利益については,①行政機関保有個人情報保護法2条2項に該当すれば直ちに不法行為法上法的保護に値する個人に関する情報とは認めがたい,②憲法13条より,「個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人の私的な事柄に関する情報をみだりに第三者に取得,開示又は公表されない自由を有するものと解され,そのような利益又は権利(いわゆるプライバシー)は人格権の一つとして,不法行為法上,法的保護に値するということができる」,③自己情報コントロール権は,法的保護に値する権利としての成熟性は認めがたいが,行政機関保有個人情報保護法の定め(同法3条等)は斟酌されるべき,としました。

以上の考え方を前提として,「一般的には自らが公開の場所で行った活動,それ自体の情報については秘匿性に乏しく,第三者にみだりに取得,開示,公表されたくないとの期待は当然に保護されるべきものとは考え難く,特別の事情のない限りプライバシーに係る情報として法的保護の対象とはならない」としています。

その他,肖像権,思想良心の自由・表現の自由・知る権利・平和的生存権・監視等されない自由については,権利侵害がないか,憲法上保障されていないという理由で認めていません。

以上を踏まえて,原告乙山に関する情報収集の違法性を認めた理由は次のとおりです。

情報保全隊は,乙山のライブ活動をきっかけとして,その本名及び職業を調べ,今後のライブ活動の予定に関する情報を収集したと認めました。

そして,それらの情報収集は「自衛隊若しくは隊員に対しての直接的な働きかけを伴う行動」とはいえず,一般に公にしていない乙山のライブの予定や本名及び職業については探索する必要性は認め難いとして,プライバシー侵害を認めました。

【井垣コメント】

行政機関の情報収集が国賠法上違法となり,損害賠償まで認めたというケースはかなりレアなのではないでしょうか。
本件は実際に相談があると,弁護士としてはいろいろ悩みのあるものだと思います。

判決録<民事>

○権利能力なき社団の会長等に対する責任追及の方法として,株式会社代表訴訟または一般社団法人等の理事者の責任追及の規定を類推適用することを否定した事例(東京地判平成27年11月9日)

【事案の概要】

権利能力なき社団であるA協議会の会員である原告Xらは,A協議会の会長,副会長であるY1~Y3が,Aの規則に違反して専務理事に対し1200万円を給与として支出したものとして,1200万円をAに支払うよう求めたものです。

【裁判所の判断】

「原告らが,自己の固有の権利を主張するのであればともかく,Aの被告らに対する請求権の行使を臨むのであれば,こうした総会における議論等を通じて,A内部の意思決定を諮るのが相当であり,会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律のように,法が明文で第三者に訴訟追行権を規定しているのであれば別段,そのようには法が予定していないにもかかわらず,権利能力なき社団の構成員に対し,当該社団の権利を訴訟上行使させるkとは,かえって混乱を招き得るものというほかはない」

【井垣コメント】

日本の司法制度においては,自らの具体的な権利利益について争うのであれば,自らが訴訟提起しなければならないのが原則です。例外的に,会社法847条以下や一般法人法278条以下では,取締役等が法人に損害を与えた場合,会社がその損害を取締役等に請求しなければ,社員(株主など)が会社に支払うよう請求できる(いわゆる代表訴訟)と定めています。

例外的にそのような制度が認められているのは,法人側の人間(取締役,理事,監査役,監事など)が法人に損害を与えたも素直に賠償はしないと思われるので,最終的な損害回復手段として社員に訴訟追行権を与えたというものですが,権利能力なき社団においても総会がまったく開かれず,責任追及の手段がない場合には,類推適用を認めざるをえないのではないでしょうか。

○代理人弁護士が証人尋問中に証人に怪我させた行為について不法行為責任を認めた事例(東京地判平成27年9月16日)

【事案の概要】

青森地裁八戸支部で,被告Y(弁護士)が,乙号証の綴りを原告(依頼者)に示し,質問を終えて綴りを回収するときに,書証をよく見ようとして顔を近づけた原告の右目に綴りを当ててしまいました。尋問はそのまま終了しましたが,原告は「右角膜びらん」と診断されたので,治療費,慰謝料および弁護士費用の合計3000万円と遅延損害金を求めたものです。
なお,国に対しても国家賠償請求をしています。

【裁判所の判断】

東京地判は故意にあてたことは否定した上で,「被告Y1が本件綴りを注意して回収すれば,本件接触行為を避けることは十分可能であったというのが相当」として,Yに対し,4万1970円(治療費7970円,慰謝料3万円,弁護士費用4000円)の損害賠償責任を認めました。

【井垣コメント】

怪我させちゃったんだから不法行為責任を負うのは致し方無いですが,なんで青森で起きた事件で当事者も青森なのに,東京地裁でやってるんですかね・・・おそらく原告か原告代理人が東京の人で,東京地裁でやるために無理筋な国賠訴訟を付けて管轄を持ってきたのではないかと邪推してしまいますね。移送申立ても通らなかったんでしょうか。

○インターネット上でNTTの電話帳に掲載された個人や法人の名前を検索できるようなウェブサイトの開設者に対し,電話番号等の削除と将来における掲載禁止が認められた事例(さいたま地決平成28年5月19日)

【事案の概要】

「ネットの電話帳」という名前で,ハローページ(NTTの電話帳)に載っている電話番号,名前,住所を検索できるようにしたサイトを開設している者に対し,電話番号等を掲載されている者が氏名や電話番号等が記載された記事の削除・今後の掲載禁止を求める仮処分を求めたものです。

【裁判所の判断】

仮処分決定なので主文のみです。

【井垣コメント】

当事者がどのような主張をしたのかはわかりませんが,おそらくプライバシー侵害の主張をしたのでしょう。
ただ,ハローページが個人や法人の名前・住所・連絡先を公開していなければ,それに依拠したサイトも現れないわけで,後者はプライバシー侵害となって前者がプライバシー侵害とはならないというのが仮処分の相手方の言い分になるかと思いますが,今後訴訟に発展するとどうなるか楽しみです。既に京都地裁に同種別件が係属しているようなので,そちらが先に結論が出るでしょう。

○被用者が使用者所有の自動車を職務のため運転中に事故を起こし,賠償金を支払った場合に,被用者が使用者に対していわゆる逆求償を認めた事例(佐賀地判平成27年9月11日)

【事案の概要】

XはY社の被用者でしたが,Y所有の貨物自動車を運転中に事故を起こし,修理代金38万2299円を支払いました。そこで,Xは,Y社に対し,当該事故についての求償請求権を取得したとして同額の支払を求めました。なお,Y社は,Xに対し,本件事故でY社所有の車両を損傷させたとして,不法行為に基づき8万0698円の損害賠償請求を求める反訴をしています。

【裁判所の判断】

佐賀地判は,「被用者がその事業の執行につき第三者に対して加害行為を行ったことにより被用者および使用者が損害賠償責任を負担した場合,当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯債務の関係にあるといえる。そして,使用者が責任を負う理由としては,被用者・使用者間には雇用契約が存在しており,使用者は被用者の活動によって自己の活動領域を拡張しているという関係に立つこと(いわゆる報償責任)から,被用者がその事業の執行について他人に損害を与えた場合には,被用者及び使用の損害賠償債務については自ずと負担部分が存在することになり,一方が自己負担分を超えて相手方に損害を賠償したときは,その者は,自己の負担部分を超えた部分について他方に対し求償することができると解するのが相当である」とし,使用者と被用者の各負担部分を7対3としていわゆる逆求償を認めました。

また,使用者から被用者に対する損害賠償請求については,「損害の公平な分担といいう見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し上記損害の賠償を請求することができる」(最判昭和51年7月8日)とし,信義則上損害額の3割まで請求できるとしました。

【井垣コメント】

本件における使用者と被用者の間の関係は,労働契約とも請負契約とも評価できる事案でした(そしてこのようなケースは,残業代請求などでも労働者性が争われ,よく問題になります)。
もっとも,労働者性については争点とはなっていなかったようです。

使用者責任における求償とは,使用者が使用者責任を負担した場合に被用者に対してその分の負担を求めることを言いますが,今回は逆に使用者責任が成立する場合において,被用者から使用者に求償するといういわゆる逆求償の事例です。
民法上規定がないため,見解が分かれていますが,逆求償を認める見解の方が一般的かと思います。本判決も不真正連帯債務の理論から逆求償を認めています。

ところで,この件って,そもそも自動車保険に入ってなかったんですかね・・・入ってたらこんな問題にならなかったと思うんですが。

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