判例時報2294号(平成28年7月11日号)のまとめ

判例時報2294号(平成28年7月11日号)について,井垣孝之が興味を持ったものをピックアップしています。判例時報に掲載されているすべての判例・裁判例を紹介するとは限りません。
判例・裁判例のタイトル冒頭の◎は最高裁の判例,●は高裁裁判例,○は地裁裁判例です。

●養育費の算定にあたって、大学の学費を国立大学の学費標準額を考慮して算定した事例(大阪高決平成27年4月22日)

離婚の場合に未成年の子どもがいると、養育費を決める必要があります。その際に問題になるのが、私立大学に進学した場合の学費や高額な医療費の分担、養育費の支払い義務者の多額の借金などです。

実務で一般的に使用される簡易算定表では以上のような特別な事情が考慮されていないため、個別ケースで検討する必要があります。

本件では、子どもが私立大学に進学した場合に、養育費の支払義務者が私立大学への進学を前提とした学費の負担を了承していなかったけれども、子どもの高校進学時に国立大学に進学することは視野に入れていたことを前提として、国立大学の学費標準額及び通学費用分を養育費に上乗せしました。

具体的には、国立大学の学費の標準額は、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令で年53万5800円とされており、それに通学費用として年13万円を加算し、算定表では標準的学習費用として年33万3844円とされているので、それを控除し、大学進学分の養育費を年33万1956円と計算しました。

養育費義務者は、その3分の1の負担が相当として、その分を加算しています。

 

○債務整理・過払い事件を取り扱う事務所で雇っていた元裁判所書記官の整理解雇が無効とされた事例(東京地判平成27年9月18日)

事業の縮小等により整理解雇をする場合、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。

その判断基準としては、次の4要素を総合考慮して判断するのが一般的です。

①人員削減の必要性
②解雇回避努力義務の履践
③被解雇者選定基準の合理性
④解雇手続の適法性

本件は②と③の要素が不十分として整理解雇を無効とした事例です。

本件の被告である弁護士法人の売上は、平成23年は約7億、平成24年は約5億、平成25年は約9200万と急減しており、平成24年12月期には約20億円の赤字だったそうで、①の要素は認められています。

しかし、原告は裁判所書記官としての長年の経歴がある以上、他の法律事務もできるはずなので、配置転換すべきであり、十分に配置転換について検討したとは認められないこと、被告法人の主張する消極理由は③の要素として十分ではないとして、②と③の要素について否定しました。

はたから見ていると、裁判所が「裁判所書記官を首にするとは何事だ!」とイラッとした判決とも読めなくもありません。

 

●会社解散にあたって手続が不十分であったとしても、解散による解雇は解雇権濫用ではないとされた事例(東京高判平成26年6月12日)

経営状況が厳しい会社側と労働組合との戦い方のひとつに、会社を解散して全員解雇してしまうという荒業があります。
ただし、これもいろいろ考えた上でやらないと、法人格否認の法理で労働契約上の権利が別の会社に承継されてしまうという難点がありますが、本件では労働契約上の地位の承継は認められず、解雇権濫用にもあたらないとして労働者側が敗訴しています。前述の整理解雇の4要素のうち④の話です。

本件では会社の財務状況が悪く、それでもなお労働者側が賃金改定を求めたため、解散することとしたというものです。裁判所は、「手続をとったとしても円滑に進行するか疑問であり・・・必要かつ可能な手続きを敢えてとらなかったことにより、ことさら控訴人に不利益を与えたとまではいうことができない」と判示しています。
手続は重要ですが、手続を守ったとしても結果が変わらないなら、手続が不十分でも仕方ないでしょ、ということですね。

 

 

 

 

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