最判平成26年3月24日(判例時報2297号平成28年8月11日)
【事例】
うつ病に罹患して休職し,休職期間満了後にYに解雇されたXが,うつ病はYの過重な業務によるものであるとして解雇が違法無効と主張し,Yに対して安全配慮義務違反等の損害賠償等を求めた事件です。
Xは,毎月64時間から84時間程度の残業をしており,Yの産業医を受診するも特段の就労制限は必要ないと言われたものの,めまいや不眠等の症状が出たことから,一般の神経科の医院を受診しました。Xの症状はその後も重くなり,出勤できなくなりました。しかし,神経科の医院に通院していることや診断名等を産業医に申告していなかったため,Yは,それによって発症後の症状の悪化を防ぐことができなかったと主張して,損害賠償請求について過失相殺するよう求めました。
【判旨の要点】
・Xの業務の負担は相当過重だった
・メンタルヘルスに関する情報は,労働者にとってプライバシーに属する事柄なので,職場に知られずに就労することが想定される性質のもの
・使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくともその健康に注意を払うべき安全配慮義務違反を負っている
・過重な業務の中で会社を休むなどしていたのであるから,会社としてはそのような状態が過重な業務によって生じていることを認識しうる状況にあり,その状態の悪化を防ぐために業務の軽減をするなどの措置をとることは可能であった
【結論】
「安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として上告人に対し賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできない」
(原審はうつ病には業務起因性が認められ,本件解雇は無効,未払賃金請求については残業手当相当部分と賞与相当部分を除いた部分のみ認容,最高裁は安全配慮義務違反等の損害賠償部分の原告敗訴部分について破棄差戻し)
【コメント】
労働災害においては,労働者の心因的要因に基づく過失相殺が認められることがあります(最判平成12年3月24日など)。
メンタルヘルスによる労使トラブルは増えています。結果的には敗訴していますが,この事件の被告となった会社はきちんと会社側が法的な対応はしていたことが伺えます。大企業だから当然ではありますが,きちんと就業規則等でメンタルヘルスの場合の処理を規定しているからです。
就業規則できちんと精神疾患の場合を想定した規定を置いておかないと,辞めさせることもできずに非常に困ったことになりますので,まだ整備されていない中小企業の方は早めにご相談ください。